エアートラップの発生

外観面に逃げ場を失った空気溜りが発生

外観面に逃げ場を失った空気溜りが発生

 

筆記具タイプの化粧品容器パーツで寸法は、外径φ10mm長さ15mm位です、組立て完了後は写真で見える部分が外観面で、それ以外は下は全て隠れて見えなくなる部品です。

外観面重視のためゲートは下方向の胴体部分からのサブマリンゲートと指示されています、このタイプのパーツはインクを使う筆記具に良く使われるパーツと同じような機能目的で使われるケースが多いのですが、化粧品容器ほど外観面を重視しないため、通常は天面中央へのピンゲート方式、スリーブ突き出しの金型が一般的で、この写真のようなエアートラップ不良は殆ど発生致しません。

広口瓶容器キャップのような、ある程度の大きさを持った形状ですと、内側からのピンゲートで固定側突き出し方式の金型も可能ですが、特殊な金型構造となるため金型コストが大きくアップし、2次スプルーが太くて長くなるため冷却時間が長くなり、結果としてサイクルタイムの延長とスプルーとランナーの重量増加によるランニングコストの増加になってしまいますが、今回は部品サイズも小さいため内側ピンゲート方式には不適格でした。

エアートラップが生成される仕組み

逃げ場を失ったキャビティ内の空気のイタズラがエアートラップ

エアートラップアニメーション

 

上のエアートラップアニメーションでご説明させて戴きます、胴体中央部右の黄色いコーンがサブマリンゲートです。

サブマリンゲートを通過した樹脂は内側のコアピンに突き当たり、上下左右四方へほゞ円形に拡がります、左右へ拡がった樹脂がほゞ胴体の半分程充填した時点で、胴体の上へ流れた樹脂がゲート側外観面へ到達し、すぐに外周のパーティングラインまで進みます、その後はゲートから左右へ拡がった樹脂が上へ拡がりながら反ゲート側へ進み、ゲートから上へ供給された樹脂と合流しながら、キャビティ内を充填していきますが、約90%程充填した時点で外周のパーティングラインへ到達した樹脂が外観面中央を進んでいた樹脂を追い越します、その追い越した樹脂が左右から合流して、今度は内側の外観面へ進みます。

外観面中央流れていた樹脂が外周へ到達する直前で、左右から廻り込んだ樹脂によってキャビティ内の空気が閉じ込められてしまいます、逃げ場を失った空気は樹脂の充填によって圧縮されて、高温になり発生するエアートラップ現象で、成形機が持つ最大圧力で充填しても、其処に存在する空気を逃がさない限り永遠に解消出来ません、射出速度が早ければ焼け不良となり、僅か数回の成型で金型にピンホールが発生し、金型を寿命へと追い立てます。
外観面に凹不良が発生しないケースでは、Y字形のウェルドラインが発生します、何れにしても逃げ場を失った空気が、圧縮されて高温になることに大きな違いはなく、新たにガス抜きピンを設ける等の、外観を犠牲にすることも考慮した対策を講じないと解決しません。
根本的対処法は、樹脂の多方向からの廻り込みを回避する必要が有り、製品デザインの設計変更や、流動解析で解析し乍らゲート方式・ゲート位置等の変更が必要となります。ダメージを受けた金型を、レーザー溶接で復元することも可能ですが、Maid in Japanの化粧品メーカーは外観には非常に厳しく、金型の肉盛り溶接補修での復元は100%認めて戴けないので創り直しになるのは間違いございません。

デザイン変更で樹脂の流れが変わるの?

エアートラップ未対策CUTモデル

エアートラップ未対策CUTモデル

 

最も理想的な樹脂の流し方としては、中心から放射状に外へ向かう流れが均一で最高ですが、設定されたサブマリンゲートでは【無い物ねだり】です、ではどうしましょう。

ゲートから射出した樹脂を胴体全周への充填を遅らせる=遅れたぶん天側外観面へ充填が早まると共に、反ゲート側下方向からの廻り込みも少なくなる。対策:胴体部の内径を太らせて肉厚を削る。

エアートラップ対策済CUTモデル

エアートラップ対策済CUTモデル

 

ゲートから射出した樹脂が胴体を伝って天側外観面へ到達したら、外周パーティングラインへの到達を遅らる事が出来れば、中央部分へは短時間で充填する。=中央部へ短時間で充填した後は、充填していない空洞部イコール外周パーティングラインへ流れる対策:外周パーティングラインの手前に堰を設けて樹脂を止める。

樹脂の流れは本当に変わったのか?

m709Plgu-After

m709Plgu-After

m709Plgu_反ゲート側_After

m709Plgu_反ゲート側_After

 

ご覧下さい、ものの見事に樹脂の流れが変わりました、下のアニメーションがゲートの反対側からのビューです、胴体部分は天側外観面より少し早めに充填完了していますが、外観部の堰を設けた内側は胴体部の樹脂が上がる前にすでに充填済になっています。よって、外観面は堰を設けた外側のガスベントが設置済のパーティングラインがほゞ同時に充填、他方では薄肉化したため充填が遅れていた胴体部も全体にほゞ充填したため、未充填部分へ圧力が掛かるようになり、パーティングラインの充填から少し遅れて、こちらもガスベントを設けたセンターピンとエジェクタスリーブピンへ、キャビティ内の空気を押し出し乍ら充填する様子がハッキリと読み取れます。

Moldflowのプラスチック流動解析は信頼できるのか?

外観不良は解消

外観不良は解消

 

金型の製作打合せ初頭から問題になっていた外観面は、弊社の提案によって、ご覧いただければお判りのように全く問題の無い製品として仕上がりました。

(有)タマチ製作所では、プラスチック金型の設計・製作を主業とし、流動解析を金型創りの第一歩と位置付けており、最初の工程に割り当てています、流動解析によって満足できる良品が得られる検証をしてから、次工程の金型設計に移ります、金型としての駒分割とガス抜き設計、製品の取り数とアンダーカット処理方式によるレイアウトとモールドベースの設計の終了後、もう一度Moldfiow流動解析へ戻り、量産成形を想定しコストを重視したランナー解析を行います、このように金型創りと流動解析の融合を目指し、実践し更にお客様のお役に立てるよう積極運用して参ります。